MSPAの対象となる方について
MSPA(発達障害の要支援度評価尺度)を実施できるようになりました
こんにちは。なぎさ心理相談室です。
このたび、当相談室で MSPA(エムスパ:発達障害の要支援度評価尺度) を実施できるようになりました。
MSPAは、発達特性の現れ方や、日常生活の中でどのような困難が生じているのかを多面的に評価し、必要な支援を考えるための尺度です。
今回は、MSPAとはどのようなものなのか、どのような場面で役立つのか、また、開発の背景や信頼性についてもご紹介します。
MSPAとは?
MSPAは、英語の Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD の略称です。京都大学の船曳康子先生らによって開発された、発達特性と支援の必要性を多面的に評価するための尺度です。
発達特性の現れ方は、一人ひとり異なります。同じ診断名であっても、得意なことや苦手なこと、生活の中で困りやすい場面、必要とする支援はさまざまです。
たとえば、人とのコミュニケーションに難しさがある方もいれば、予定の変更が苦手な方、感覚刺激に敏感な方、注意を持続することや衝動を調整することに難しさがある方もいます。
MSPAでは、本人や関係者への聞き取りなどを通して、発達特性の現れ方や支援の必要性を評価します。結果はレーダーチャートで視覚的に示されるため、その人の特徴や支援が必要な領域を整理する際に役立ちます。
MSPAはどこで開発されたのでしょうか?
MSPAは、京都大学の研究者らによって開発されました。
開発の背景には、発達障害の診断名だけでは、その人が抱えている困難や必要な支援を十分に把握できないという課題がありました。
発達特性には個人差があり、複数の特性が重なり合っていることも少なくありません。そのため、診断名だけでなく、個々の特性の現れ方や生活への影響を多面的に捉えることが重要になります。
こうした課題を踏まえ、MSPAは、発達特性を複数の領域から評価し、本人や周囲の人が特徴を理解しやすくするとともに、必要な支援を具体的に検討することを目指して開発されました。
2011年には、MSPAの開発に関する研究が国際学術誌 Research in Developmental Disabilities に掲載されています。また、2013年には、日本語での信頼性に関する研究も発表されています。
このように、MSPAは臨床的な課題を背景に開発され、学術研究を通じて検討されてきた評価尺度です。
MSPAの信頼性について
心理検査や評価尺度を利用する際には、その結果をどの程度信頼できるのかという点も重要です。
MSPAの開発研究では、179名を対象とした調査が行われ、評価者間の一致度、すなわち評価する人が異なっても結果がどの程度一致するかという点が検討されました。その結果、評価者間の信頼性は良好であったと報告されています。
また、2013年には、MSPAの信頼性について日本語での研究も発表されています。
ただし、評価尺度の信頼性は、特定の研究条件において検討されたものです。信頼性に関する研究結果だけで、あらゆる状況における評価の正確さが保証されるわけではありません。
MSPAの結果についても、面接で得られた情報や発達歴、現在の生活状況などと合わせて理解することが大切です。
MSPAではどのようなことを評価するのでしょうか?
MSPAでは、発達特性に関わる複数の領域を評価します。
主な領域には、次のようなものがあります。
- コミュニケーション:相手の意図を理解することや、自分の考えを伝えること
- 集団適応力:集団の中で状況に合わせて行動すること
- 共感性:相手の気持ちや立場を理解すること
- こだわり:特定の手順や考え方へのこだわり
- 感覚:音や光、触覚などの感覚に対する敏感さ
- 不注意・多動性・衝動性:注意を保つことや、行動を調整すること
- 学習や運動に関する特性
- 睡眠リズム
MSPAでは、こうした領域を含む複数の側面から、その人の特徴を捉えます。
大切なのは、単に発達特性の有無を確認するだけではないという点です。特性が日常生活にどのような影響を与えているのか、どのような配慮や支援があると生活しやすくなるのかを考えるために活用します。
MSPAはどのようなときに役立つのでしょうか?
1.自分の特性や困りごとを整理したいとき
「仕事でミスが多い」「人との会話で行き違いが起こりやすい」「予定の変更が苦手」「音や光が気になって疲れてしまう」など、生活上の困りごとにはさまざまなものがあります。
こうした困りごとが、どのような特性と関連しているのかを整理することは、自分自身を理解するための手がかりになります。
これまで自分の努力不足や性格の問題だと考えてきたことも、発達特性という視点から捉え直すことで、具体的な対処方法を検討しやすくなる場合があります。
2.学校や職場で必要な配慮を考えたいとき
発達特性による困難は、本人の特性だけでなく、周囲の環境との組み合わせによっても生じます。
たとえば、口頭で複数の指示を受けると混乱しやすい場合には、指示を紙に書いてもらう、手順を分けて伝えてもらうといった工夫が考えられます。
感覚刺激に敏感な場合には、座席や作業場所を調整することが役立つかもしれません。
MSPAで特性と支援の必要性を整理することは、本人に合った環境調整や配慮を検討する際の参考になります。
3.家族や支援者と理解を共有したいとき
本人が困っていることと、周囲が困っていることが、必ずしも一致するとは限りません。
本人は一生懸命取り組んでいても、周囲からは「なぜできないのだろう」「どうして同じことを繰り返すのだろう」と受け止められてしまうことがあります。
MSPAを活用して特性を整理することで、本人と家族、学校や職場などの支援者が、困りごとの背景や必要な支援について話し合うための共通の手がかりを得られます。
MSPAと知能検査はどう違うのでしょうか?
MSPAと知能検査は、それぞれ目的が異なります。
知能検査では、知的な能力の特徴や課題への取り組み方などを評価します。一方、MSPAでは、発達特性の現れ方や日常生活上の困難、支援の必要性を多面的に整理します。
それぞれの評価から得られる情報を組み合わせることで、本人の得意なことや苦手なこと、生活上の困難について、より多角的に理解できる場合があります。
なお、MSPAは発達特性や要支援度を評価する尺度であり、MSPAの結果だけで発達障害の診断が確定するわけではありません。当相談室には臨床心理士/公認心理師しかおりませんので、診断を行うことはできません。
MSPAの対象となる方について
MSPAは、就園前の幼児を除き、子どもから成人までを対象とする評価尺度です。
ただし、MSPAでは、現在の様子だけでなく、幼少期からの発達の経過についても情報を得ることが重要になります。
そのため、成人の方の場合、年齢が上がるにつれて、ご家族や親族から幼少期の様子について情報を得ることが難しくなり、評価の実施が困難になる場合があります。
実施にあたっては、ご本人の現在の状況に加え、これまでの発達の経過について、どの程度情報を確認できるかも重要になります。
なぎさ心理相談室でのMSPAの活用について
なぎさ心理相談室では、MSPAを、発達特性や生活上の困りごとを理解し、今後の支援や対処方法を考えるための一つの手がかりとして活用していきます。
評価を行うこと自体が目的なのではなく、評価から得られた情報を、実際の生活にどう生かしていくかが大切だと考えています。
ご本人が日々の生活で感じている困難や、これまで工夫してきたこと、周囲の環境なども丁寧に伺いながら、その方に合った理解や支援につなげていきたいと思います。
発達特性について理解を深めたい方、生活上の困りごとを整理したい方、身近な方への関わり方を考えたい方は、どうぞご相談ください。
MSPAの実施をご希望の方は、事前にお問い合わせください。
参考文献・関連情報
Funabiki, Y., Kawagishi, H., Uwatoko, T., Yoshimura, S., & Murai, T. (2011). Development of a multi-dimensional scale for PDD and ADHD. Research in Developmental Disabilities, 32(3), 995–1003. https://doi.org/10.1016/j.ridd.2011.01.052
船曳康子ほか(2013)「発達障害者の特性理解用レーダーチャート(MSPA)の作成,及び信頼性の検討」『児童青年精神医学とその近接領域』54巻1号,14–26頁。
