なぎさ心理相談室|宇都宮の心理カウンセリング

なぎさ心理相談室

WEB予約
アクセス
お問合せ
お困りの症状

曝露反応妨害法(ERP)もとい、言語的価値低減法を用いたeRPの違い

なぎさ心理相談室では、強迫症や不安症の方、また抑うつ的で考え続けてしまう方に、言語的価値低減法という方法をご紹介しています。

強迫症の方たちは、不安や恐怖が背景にあって強迫観念を抱き、強迫行為を行ってしまう状態です。
例えば、汚れに触れると自分が病気になってしまうのではないかという強迫観念を持っている方がいます。そうすると、その人は家に帰り何時間もかけて手を洗うことになります。この手洗い行為が強迫行為です。

現在多く行われている治療法としては、曝露反応妨害法(Exposure and Response Prevention: ERPがあります。
曝露反応妨害法について、東京認知行動療法センターは以下のように説明しています。
『 「曝露法」は、強い不安が生じてもすぐにそれを鎮静化しようとせずに、不安に自分自身をさらす(曝す)ことです。心理学では、不安に自分自身をさらしていると、時間の経過とともに不安が下がっていくことが確認されています。人間の「慣れ」という性質をうまく使った方法です。

一方、「反応妨害法」は、一時的に不安を鎮静化するために行ってきた強迫行為をがまんして行わないようにする方法です。強迫性障害への介入では、この2つを組み合わせた「曝露反応妨害法」を実施し、強迫行為をしなくても不安が下がっていくことを繰り返し体験してもらいます。こうすることによって、強迫行為は徐々に不要となり、強迫観念も自然と解消されていきます。』

けれど、この「曝露Exposure」を実施するのがなかなか難しいんです。たとえば極端な例ですが、不潔恐怖の人に「トイレの水を触ってください」とか「服につけてください」という課題が出されることがあります。
これ、普通の人でも嫌ですよね。それを不潔恐怖の人にさせようというわけですから、本人にとっての恐怖感たるものや、という感じです。
もちろんもっと簡単にできる課題(トイレの壁や便座に触って手を水洗いだけにするなど)を繰り返すことで、不潔恐怖を乗り越えることもできます。

けれど、自分にとって非常に負荷の高い曝露課題を出されると、強迫症の方はなかなか立ち向かえないですよね。
結局課題はできないまま、次のカウンセリングの日を迎えてしまう。
そうすると、きちんと課題ができない自分が悪いとか、やるって言ったのにできない自分が悪いとか考えて、自己嫌悪してしまいます。そうするとますます、次の課題に取り組むことが難しくなる。これは悪循環ですね。
逆に、あまりにも軽すぎる課題を出すことで、なかなか本質的な不安に立ち向かえるようにならないということも起こります。


言語的価値低減法は、強迫症治療のエキスパートである岡嶋美代先生が考案された行動療法です。
嫌な考えが浮かんだ時に「ハイハイ」「あっそう」などの言葉を自分で自分に言ってスルーすることによって、強迫観念に対しておざなりにする態度を作っていく行動療法です。
そうして強迫観念に対応していくのと同時に、強迫行為の妨害も課題に取り入れていきますが、「手を洗わない」というような妨害方法ではなく行為の簡素化を目指すやり方です。日常的にしている強迫行為に対して、安心や安全を完璧に保証するのではなく、それをちょっと足りな目に行いながら日常生活を送れるようにしていくことを目指します。こうすることで、ほんの少しではありますが自分にとって抱えられるだけの不安や嫌悪感に曝すことができます。不安が時間の経過とともに下がると教えないことやマインドフルネスを使うことも大事なポイントです。これをeRPと呼ぶようです。おそらく「曝露」をそれほど大々的にしないのでExposureのEが小文字になっていると思われます。

例えば、鍵をきちんと閉めたかどうかが気になって、何度もドアノブを確認してしまう強迫行為がある場合、10回ドアノブをがちゃがちゃして確認してしまうのを、9回にするという目標を作ります(もちろん、治療者とクライアント双方同意の上です)。まずはその目標を試してみます。

この「ちょっと足りなめ」というのがキーワードになっています。ここまでやれば満足できる、というところの少し手前で終わらせるのが目標です。
なるべく、カウンセリングの中で実際に試すことができるとよいようです。私もついそのことを忘れてしまいがちなのですが、例えば実際に面接室の中や外に出てみて試してみることができるといいわけです。そうすると、実際にやってみた感想も分かります。それに、次はどんな目標にしようということも体験から分かりやすいですね。
たとえば、手洗いを何度もしてしまう人の場合、完全に満足するまで手洗いをするのではなく、少し足りないところでやめる練習をしてもらうなどになると思います。

こうした治療をすすめながら、現実的な適応も進めていくことが必要になるかと思います。
例えば仕事を始めたり、仕事をするのはまだ難しい場合は外に出る練習を始めたり、学生で学校に行けていない場合は学校やそれ以外の場所に通ってみたりということです。
こうしたことも、ご本人と治療者でどんなことができそうかを話し合って考えていけるといいと思います。

こういった対応を一緒にしていくことで、強迫症の方の苦しみを少しでも楽にすることができればと思っています。

なぎさ心理相談室では、強迫性障害の方に、曝露反応妨害法の考え方に基づいた言語的価値低減法を実施しています。強迫性障害の方、よろしければぜひ一度お越しください。

*参考文献
平田祐也、岡嶋美代「加害恐怖を呈する30代女性に対する言語的価値低減法を実施した症例報告 ~eRPの工夫~」日本認知・行動療法学会大会発表論文集 49: 447-448, 2023
岡嶋美代【教育講演3】「言語的価値低減法のすすめー反芻思考の妨害とドロップアウトを防ぐエクスポージャー療法の工夫―」日本認知・行動療法学会大会発表論文集 50: 82-83, 2024

関連記事

PAGE TOP