「合理的配慮」とは
平成28年4月、障害者差別解消法が制定されました。
この法律の中身について、atacLabの動画シリーズ LDオンデマンド シリーズの河野俊寛先生による「入試における合理的配慮とは?」の動画から以下の文章は引用しています。
障害者差別解消法では、
(1)障害を理由とした差別的取り扱いの禁止
(2)障害者が壁を感じずに生活できるように合理的な配慮をすること
の両方を、現在(2024年4月1日以降)は公的機関(公立の小中学校や自治体など)のみでなく、私立の学校や企業等事業者にも合理的配慮を法的義務としています。
動画の中で河野先生は次のように仰っています。
「保育園や幼稚園で保護者の付き添いを前提に入園を認めます」というのも、合理的配慮を提供していないということで、差別になるんだそうです。
(支援者側としては、結構耳の痛い話です…)
「障害者差別解消法」では、次の二点を障害者差別であると定めています。
「不当な差別的取扱い」
「合理的配慮の不提供」
では、「合理的配慮」とは何なのでしょうか?
「合理的配慮」を英語にすると「reasonable accomodation」となります。
accomodationを辞書で調べると、「調整・順応」とあります。「配慮」と言われると、「気配り」のように感じてしまいますね。
国連が定めた「障害者の権利に関する条約」(日本国憲法の次ぐらいに重要なもので、学校教育法よりも上と河野先生は仰っていました)によると、以下のような内容が「合理的配慮」にあたるそうです。
- 「必要かつ適当な変更及び調整」
- 紙の文字を読むのがとても遅い、時間がかかりすぎる子どもに、文字情報を音声情報に変更して提供すること
- 紙に文字を書くことにとても時間がかかる子どもに、キーボードでの入力を認めること
- 「特定の場合において必要とされる」
- 読み書きには問題があるので音声情報を必要とするが、数学には問題がないので通常通りでよいなど
- 「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」
3つ目については、日本は「判例主義」だそうで、今のところ(この動画が取られたのは、3年前つまり2021年です)「障害者差別解消法」に基づいた裁判は起きていないそうです。
裁判が起きて判例が積み重なることで、どんな事例が「過度な負担」なのかが分かってくるかもしれません。
スタートラインを揃える
(この画像はhttps://www.magicaltoybox.org/kinta/2018/12/13/18131/からお借りしています。(http://npo-atds.org/)https://www.assistivetechnology.cfbx.jp/kinta/2021/02/25/23859/元は高松崇さんから提供していただいたそうです)
この絵は、左から「平等(equality)」「公正(equity)」「過剰(excessive)」を表しています。
合理的配慮とは、「本質を変えずにスタートラインを揃えること」と河野先生はおっしゃっています。
この例では、真ん中の「公正」が合理的配慮が行われている場面です。
左の「平等」では、背の低い子は野球の試合を見ることはできません。
一方、右の「過剰」では、背の低い子は椅子に座っており、配慮しすぎになっています。
この絵の中で真ん中の絵のような状態で野球の試合を見た後で、学校で「今日の野球の試合の感想を書きましょう」と言われても、集中して見ていなくて感想が書けない子どもがいることもあるかもしれません。
その場合、「感想が書けない」ことは自己責任になるんです。集中して見ていなかったから、書けなくてもしょうがないよね、ということになります。
例えば、入試において、読み書きに不得意のある子どもに時間の延長をしたり、ルビを振ったりします。
その時点で、その子どもは「スタートラインを揃えられている」わけです。合理的配慮を受けているわけです。
けれど、その試験の結果、合格になるか不合格になるかは本人の責任なわけです。
合理的配慮の具体例
合理的配慮に該当するものとして、河野先生は次の二つを挙げています。
- 代替問題
- 例:点字使用者である視覚障害者に対して、漢字を書く問題を熟語の意味を問う問題で代替する
- 特別カリキュラム
- 例:肢体不自由者に対して、水泳の実技を水泳について学ぶ講義にする
一方、合理的配慮にならないものとしては、次の三つを挙げています。
- 本質を変更するもの
- 問題数を少なくする
- テスト問題をやさしくする
- 4択の選択式問題を2択にする
- 著しい困難や出費を必要とするもの
- 明日までにエレベーターを設置するよう要求する
- 個人的サービス
- 補聴器や車いす
- 読み書き障害の場合、タブレットを用意する(学校が用意してくれる場合は問題ない。現在は小中学校では、個人用のタブレットが配られているので問題ないですね)
障害者基本法による「障害者」とは
では、「障害者」という言葉の定義はどうなっているのでしょうか。
障害者基本法では、「障害者」を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者」としています。
この「精神障害」の中に発達障害が含まれています。
こちらは、2001年までのWHO(世界保健機関)の国際障害分類では障害とは以下のように定義されていました。
現在は、ICF(国際生活機能分類)という定義に変わっています。
国立特別支援教育総合研究所 特別支援教育におけるICF及びICF-CY活用に関するよくある質問と答え(FAQ)より引用
この変化は、「医学モデル」から「社会モデル」に変わったと言われています。
「医学モデル」というのは、障害がある人が困難に直面するのは、その人に障害があるからと考えます。
また、困難を克服するのはその人(と家族)の責任だと考えます。
一方「社会モデル」では、次のように考えます。
社会(環境)が「障害」を作っている。「障害」を取り除くのは社会の責務である、と考えています。
環境の方の障害を目立たないようにするとか、邪魔なものにしないような工夫をするということになります。
合理的配慮を受けるには
合理的配慮を受けるためには、医師の診断が必要なのでしょうか?
平成29年に文部科学省から出された「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」の中には、こうあります。
「障害の内容によっては、これらの資料(手帳や診断書など)の提出が困難な場合があることに留意し、障害学生が根拠資料を取得する上での支援を行うことや、下記の建設的対話を通じて、学生本人に社会的障壁の除去の必要性が明白であることが現認できる場合には、資料の有無に関わらず、合理的配慮の提供について検討することが重要である」
病院が混んでいて、診断書をもらうのが難しい場合も多々あると思います。
読み書き障害について詳しい医師がいない場合もあると思います。
そんな方はぜひ、なぎさ心理相談室に来てください。
私がきちんと検査をして、日ごろの学習の様子を確認したうえで、合理的配慮が必要だという判断をした場合、意見書を記入します。
それを学校に提出することができます。
合理的配慮内容の決定手順
1.障害学生(または保護者)からの申出
2.障害学生と大学等による建設的対話
3.合理的配慮内容の決定
4.決定された内容のモニタリング
この1.について、河野先生は次のようにお話しされています。
本人が自分の困難さについて理解をして、周囲に配慮を求められるようになっていくこと、それを説明できるようにしていくことが非常に重要だ、と言われています。
2.についても、一方的な対話ではなく建設的な対話であることが重要だと仰っています。建設的な対話の末に、同意にたどり着くことが重要だとのことです。
実際に行われている合理的配慮
平成27年の公立高等学校入学選抜における「障害のある生徒」に対する配慮の件数(文部科学省調査)によると、2024年より9年前のこの時点でも合理的配慮が行われていることが分かります。
問題用紙・解答用紙の拡大が5件、漢字ルビが3件、問題文の読み上げが5件、時間延長が8件、別室受験が14件、全部で48件あったということです。
学校や教育委員会には「前例がない」と言われて断られることがあるかと思うんですが、そういうときにはこちらの表を見せましょう。
カラフルバードのホームページでも、全国で行われた合理的配慮の事例が載っています。
この動画の最後では、読み書き配慮のサイトにも合理的配慮の事例が載っているという話がされていました。
お子さんの読み書きの苦手さで困っていらっしゃる保護者の皆さんに、この情報が届くと嬉しいです。
もし検査や配慮についてのことでご相談されたい方は、ぜひなぎさ心理相談室にご相談ください。