発達障害の基礎知識と支援方法
*発達障害は、DSM-VTRでは「神経発達症」という名称に変わっています。
発達障害は、一般的な成長過程とは異なる発達の特性を持つ状態を指します。このような特性は、コミュニケーション能力や社会性、注意力、学習能力など様々な面で現れることがあります。具体的な種類としては、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)、発達性協調運動症(DCD)などが挙げられます。これらの特性に対応するためには、個々の特性を理解し、適切な支援や対応を提供することが重要です。教育現場では、多様なニーズに合わせた教育環境の提供や、子どもたちが健全に成長できるような援助が求められます。一方、保護者や関係者は、専門家との連携や情報収集を通じて、適切なサポートを提供することが求められます。
発達障害とは?
発達障害の定義
発達障害とは、生まれつき脳機能の発達がアンバランスで、日常生活に困難をきたす障害の総称です。主な3つの障害と特性は次のとおりです。
1.ASD(自閉スペクトラム症):こだわりが強い、コミュニケーションが苦手など。
2.ADHD(注意欠如多動症):じっとしていられない、うっかりミスが多いなど。
3.LD(学習障害):読む、書く、計算など特定分野の学習が苦手。
それぞれの特性が単独で見られる場合もあれば、複数見られる場合もあります。
自閉スペクトラム症(ASD)
これまで「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー障害」「PDDNOS(特定不能の広汎性発達障害)」などと呼ばれてきた自閉症の仲間たちが、自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症としてまとめられるようになりました。
現在の社会では、協調性や共感性を求められることが多いですね。こだわりが強く、周りに合わせることが苦手な自閉症スペクトラムの人にとっては、ストレスを感じやすい環境といえます。
自閉スペクトラム症の人たちの主な特徴は、二つと言われています。
対人関係を調整することの難しさと、自分の興味や手順などへの強いこだわりです。
また、感覚の過敏さがあるとも言われています。感覚を非常に強く感じてしまったり、反対に寒いのに薄着で出かけてしまう子どももいます。
小学校高学年ぐらいから、思春期になり自我が芽生えてくると、ASDの子どもたちは友人関係でつまずいたり、不登校になってしまったり、親に反抗的になって暴力を振ったりすることがあるようです。
こうした二次的な問題はなるべく起きないように、周囲が配慮することが大切です。自閉症スペクトラムの特性で悩んでいても、本人や家族、友達などが特性への理解を深め、生活を調整すれば、悩みは解消していきます。
もしも二次的な問題が生じてしまった場合は、医療機関の受診や、公的な教育相談室の利用、当相談室でのご相談などで対応策を一緒に考えていきましょう。
大人の方で、もしかしたら自分は自閉症スペクトラムなのかもしれない…と思っていらっしゃる方も、よければ一度ご相談にいらしてください。
一緒にお困りのことへの解決方法を考えていきたいと思います。
*ACAT*
当相談室では、小学校高学年から成人年齢の方が利用できるACATというプログラムを用意しています。このプログラムは、自分の自閉症スペクトラムの特性を知り、どんな対応をしていくとよいかを考えていくプログラムです。詳しいことを知りたい方はこちらをご覧ください。
注意欠如多動症(ADHD)
ADHDの場合、落ち着きがないことがあります。また、忘れものをしやすく、うっかりミスが多いことが挙げられます。学校の授業中に落ち着かず、周囲の音や窓の外で何かが動いたことに気を取られて、立ち上がってしまったり、教室から出て行ったりしてしまうこともあるかもしれません。
注意欠如多動症は、3つに分かれると言われています。
1.不注意優勢
「不注意」の特徴が強く現れ、「多動・衝動」の特徴があまり強くないタイプです。授業中に集中し続けることが難しい、忘れ物が多い、外からの刺激などですぐに気がそれてしまうなどの特徴があります。一方で、自分の好きなことについて考えたり取り組んだりしていると、話しかけられても気づかず、周囲の人に「無視をした」と誤解されることもあります。
2.多動・衝動優勢
「多動性及び衝動性」の特徴が強く現れ、「不注意」の特徴があまり強くないタイプです。動いていないと気分的に落ち着かないだけでなく、無意識のうちに身体が動いてしまう、感情や欲求のコントロールが苦手などの特徴があります。授業中でも立ち歩く、指名されていないのに答えてしまう、などの特徴から、集団生活で落ち着きのなさについて指摘されることも多いです。
3.どちらも存在
「不注意」と「多動・衝動」のどちらも強いタイプです。
特に「1.不注意優勢」の場合、小学校の頃などにはあまり目立たずにいて、中学生や高校生、もしくは大人になってから自分で自分の特性に気づくことがあります。仕事のミスが多いなどで困っている方は、もしかしたら「1.不注意優勢」の場合があるかもしれないです。
また、「2.多動・衝動優勢」のタイプの場合、中学生ぐらいになってくると多動さ・衝動性とも落ち着いてくると言われています。
学習障害(LD)
学習障害では、読み書きの困難、計算の困難がある場合があります。また、計算に困難さがある場合もあります。
以前スクールカウンセラーをしていた時、読み書き障がいのお子さんと出会ったことがあります。そのときはURAWSSという読み書きの検査を実施しました。
このお子さんは合理的配慮の申請をして高校受験の際、認められました。
特に学校に通っている年代では、きちんと検査をしたうえで、学校側に合理的配慮を求めていくことが必要になります。
もしもお困りのことがあり、心理検査が必要そうだということならば、一度ご相談ください。
個々の子供に合った支援プランを立てるためには、専門家や教育関係者とのコミュニケーションが欠かせません。発達障害について正しい情報を得ることも大切であり、それによって子供たちの成長をサポートすることができます。
発達障害への支援方法
発達障害への支援方法は、個々の特性やニーズに合わせたアプローチが求められます。まずは、環境を整えることが重要です。
家庭の中で、本人が落ち着いて過ごせる場所を用意することが必要でしょう。学校の中でも、本人が落ち着かなくなった時に一人になれる場所があるとよいでしょう。また、コミュニケーションや社会性に課題を抱える人に対しては、明確な指示やルールを提示することが大切です。聴覚からの刺激だけではすぐに忘れてしまう場合には、目に見えるように指示やルールを示すことも重要です。同時に、他者との関わり合いを通じた社会性の発達を促すような機会を提供することも重要です。
これらの支援方法は、個々の特性やニーズを理解し、継続的な関わり合いの中で適切な援助を行うことが重要です。支援者や保護者は、専門家と連携し、継続的な情報収集や相談を行うことで、効果的な支援が行えるよう努めることが求められます。
教育現場での支援
教育現場における発達障害への支援は、多様なニーズに合わせたアプローチが必要です。まず、教員や支援スタッフがそれぞれの生徒の特性やニーズを理解することが重要です。授業中や学習活動においては、それぞれの子どもに合った環境を用意することが求められます。
保護者との連携も重要であり、定期的な面談や情報提供を通じて、学校と家庭が連携しながら生徒の成長をサポートする体制が求められます。教職員は、専門家や支援機関と連携しながら、生徒一人ひとりのニーズに合わせた支援を行うことが肝要です。
家庭でのサポート
家庭でのサポートは、発達障害を持つ子どもや若者の日常生活を支援し、健全な成長を促す重要な役割を担っています。まずは、子どもがどんな特性を持っているかを保護者が知ることが必要でしょう。その特性に合わせた配慮を、家庭の中でもしていくことがよいでしょう。家庭内でのルーティンやルールを整えることで、安定感を提供し、予測可能な環境を作ることが重要です。言葉や行動に一貫性を持たせることで、彼らの安心感や自立心を育むことができます。
さらに、感情やストレスをうまくコントロールできないこともあります。こうした場合には、本人の感情を否定するのではなく、認めましょう。一方で、感情の抑制や対処法を教えることも大切です。アンガーコントロールなどが役立つ場合があります。また、特定の分野での興味や能力を伸ばすためのサポートも家庭で行えるでしょう。彼らが楽しめる趣味やアクティビティを見つけ、肯定的な経験をたくさん積むことで、自己肯定感を高めることができます。家庭でのサポートは、子どもや若者が健やかに成長するための基盤を築く大切な要素となります。
相談・診断のステップ
相談・診断のステップについては以下のような流れが一般的です。
まずは、気になる症状や困りごとを把握するために、専門の医療機関や心理相談機関などに相談することが重要です。カウンセリングや症状のヒアリングを通じて、適切な検査や評価を行うための準備が進みます。
次に、専門家による診断評価が行われます。精神科医、臨床心理士、言語聴覚士など、専門的な知識と経験を持つ専門家が、観察やテストを通じて症状や特性を評価し、適切な診断を行います。
診断結果をもとに、個々に適した支援や対応が検討されます。保護者や本人ともに、診断結果やその後の対応について理解を深め、必要なサポートや取り組みを行うことが求められます。
最後に、定期的なフォローアップや、発達の変化に応じた対応が行われます。継続的なサポートや情報共有が重要となります。
発達障害者に対する社会的支援
発達障害を持つ個人に対する社会的支援は、その個々の特性やニーズに配慮した包括的なアプローチが求められます。
まず、教育機関や職場などでの適切な支援が重要です。教育現場では、特別支援学校、特別支援学級、通級教室などの制度を活用し、個別支援計画(IEP)を親と教師で作成します。本人の学習や生活環境に適した援助を提供することが必要です。また、就労支援や職場での配慮も不可欠です。適切な職業訓練や障害者雇用の促進などが重要な取り組みとなります。
さらに、地域社会全体での理解と協力が欠かせません。発達障害者やその家族に対する差別的な態度や偏見を排除し、支援の充実を図ることが必要です。また、地域における交流や地域活動への参加の機会を提供し、社会参加の場を広げる取り組みも大切です。
公的サポート制度
公的サポート制度には、発達障害者やその家族が利用できる多様な支援があります。まず、障害者手帳や障害年金、障害者総合支援法に基づく各種の援助制度が挙げられます。また、経済的な支援として、障害年金や障害児福祉手当、通院医療費公費負担制度などがあります。障害者就業・生活支援センターでは、障害者やその家族からの相談、障害者を雇用している事業主からの相談に応じ、就業面・生活面の一体的な支援を行っています
まとめ
発達障害は、発達の特性を持つ状態を指します。このような特性は、コミュニケーション能力や社会性、注意力、学習能力など様々な面で現れます。例えば、自閉スペクトラム症(ASD)の場合、社会的な相互作用やコミュニケーションに課題を抱えることがあります。また、注意欠如多動症(ADHD)の場合、注意力や衝動性の制御が難しいことが特徴です。
発達障害を持つ子どもたちにとっては、周囲の適切な支援や理解が重要です。学校や地域社会、そして家庭においてもそれぞれが連携し、子どもたちが成長する環境を整えることが求められます。専門家のアドバイスや支援を受けながら、適切な支援方法を提供することで、発達障害のある子どもたちが可能性を存分に発揮できる支援体制を整えていくことが重要です。
(参考文献:「自閉症スペクトラムがよくわかる本」本田秀夫
(参考URL:「子どもの発達障害」本田秀夫),「ADHDとは?」
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