先日、修了した大学院からの案内を見て申し込んだ飯田橋メンタルクリニックの三宅永院長のご講演「普段使いの森田療法」を配信で見ました。
どこで聞いたのか覚えていないのですが、どこかで「森田療法は強迫性障害に効くらしい」という話を聞いたことがあり、興味を持っていました。
けれど、自分の知っている森田療法(学生時代に学んだきりです)の知識と言えば、「絶対臥褥(ぜったいがじょく)」「精神交互作用」などといった用語だけで、その意味すらもあいまいな状態でした。
今回お話をお聞きして、森田療法の深みを知りました。
森田療法では、現在のDSMやICDでは不安症や強迫症といわれる症状のある方の症状を治療します。これらの病気は「すぐには消えない症状があって、それを気にすれば気にするほど悪くなる病気」のことです。
例えば、以下のような症状がある方を対象にしています。
・狭い所や人混みが苦手
・鍵の閉め忘れなどが気になる
・手を洗うのがやめられない
・人前でひどく緊張する
不安や恐怖は誰にでも起こる自然な反応で、自分でコントロールできるものではありません。
外から帰ってきたら手を洗いたくなる人は、「汚れているという不安は感じないようにしたい」と考えて、それらの感情をなくそうとします。
けれど、感情というコントロールできないものを「理性でコントロールできる」と誤解して(思想の矛盾)、感情をなくそうとすると、かえって意識してしまい、感情がよけいに強まってしまう(精神交互作用)のです。
その結果、神経症という病気になってしまっているのが、今の状態です。
治療は、精神交互作用を崩すことを目指します。
精神交互作用から抜け出すため、あえて「緊張感を取ろうとするな」と森田先生は言っています。
「むしろ気にしなさい」と指示しており、緊張感や不安感はそのままにして、現在の行動の意味や目的、その根底にある願望や欲求に注意を向けるように指示しています。
なぜ、森田療法で強迫性障害がよくなっていくのでしょうか?
みなさん「ピンクの象」の話、聞いたことがありますか?
ピンクの象について、考えないようにしてください。
どうですか?ピンクの象のこと、どうしても考えてしまいますよね。
このように、「(それを)気にするな」と言われると、人間は「それ」に注目してしまうんです。
認知行動療法でも、精神交互作用のことを「自己注目」と呼び、病気を悪くする重要なメカニズムと考えています。けれど認知行動療法は、本質的に「症状にフォーカスして、それへの対処法を学ぶ」という技法なので、必然的に自己注目を高めてしまうのです。
また森田療法では、「常に何かをしている生活」を促す点も特徴的だとされています。
このあたりも、岡嶋先生の教えと通じている点だと感じました。
暇だと、どうしてもよくないことを考えてしまいます。なるべく身体を動かしている方が、思考が悪い方向に向かわないで済むと思います。
先日の講演では、このあとに森田療法のムンテラ(医師から患者さん、もしくは家族に、現在の病状や今後の治療方針などを説明すること)が13個挙げられていましたが、私がこれは強迫性障害の治療に使えそうだと考えたものだけを紹介します。
- 可能なことと不可能なことを分ける
不可能なことは放っておく
可能なことを必死にやる - 症状をなくそうとしてはいけない
的外れなところで頑張ることは、時間とエネルギーの無駄! - もしも、奇跡が起きて症状がなくなったら、何をしたい?
(このあたりはブリーフセラピーのミラクルクエスチョンとの関連を感じます)
「こうなりたい」「あれがほしい」「あれをやりたい」といった素朴な欲求のことを「生の欲望」と呼びます。
根底には「よりよく生きたい」という欲求があるのです。欲を持つこと自体も自然なことです。 - ただし「症状をなくしてほしい」「不安をなくしてほしい」という願いはダメ
不安のない、いつも心が平穏である生活を望むのは、毎日が晴天であることを望むようなものである。
「不安になると、心臓がどきどきするんです」という方に、岡嶋先生はこう返すと言います。
「心臓がどきどきしなくなったら、どうなりますか?」
心臓が動かなくなったら、死につながってしまいます。
どきどきは生きていくためには、必要なんですね。 - 自分に症状がなかったら選ぶ行動を、症状がありながらもやる。症状がなくても自分が選ばない行動は、やらなくてよし。
森田療法は(言語的価値低減法も)「どんなことも我慢せよ」と指導する治療法ではありません。
「自分がやるべきこと」「自分のためにやった方がいいこと」「自分がやりたいこと」などは、我慢してやった方が、人生が豊かになりますよ、と指導する方法です。
やりたいことを、症状を背負いながらでもやることが大事なのです。 - 「あるがまま」に捉われすぎない
森田正馬の原文では「あるがままに、なすべきことをなせ」と書かれています。
これはつまり、「症状がありながらも、やるべきことをやりなさい」ということです。 - ボーっとするのがリフレッシュ法ではない
「休息は仕事の中止にあらず、仕事の転換にある」
実際、神経症の人は長い休暇中などに調子が悪くなることが多いのです。
それを防ぐために、休息ではなく違う作業を入れるなどすることで疲れが取れると伝えます。
例えば、一日に一つは予定を入れるなどです。 - 「気にしないで、動いていきなさい」と勧める治療法ではない
「気にしながら、動いていくしかない。でも動くと変わる」
このように森田療法には、強迫症の方の治療にも使えそうな部分がたくさんありました。
特に、「症状を背負いながらもやりたいことをやる」というのが素晴らしいと思います。
ぜひ、こうした考えを取り入れて強迫症の治療を進めていきたいです。
*このブログの内容は全て、「普段使いの森田療法 飯田橋メンタルクリニック 三宅永先生」のご講演資料から引用しています。